所在不明の区分所有者にどう対応する?改正区分所有法で新設された制度

前回の記事では、老朽化したマンションの建替えを進めやすくするために、決議のルールがどう変わったかをご紹介しました。今回はその建替え決議とも深く関わる、もうひとつの大きな変化を取り上げます。「連絡が取れない所有者がいて、総会が前に進まない」という、多くの管理組合が抱えてきた悩みへの対応です。

目次

「連絡が取れない所有者」が総会を止めてしまう

マンションの管理組合の総会では、多くの重要な決めごとについて、区分所有者(マンションの各部屋を所有している人のことです)の一定割合以上の賛成が必要です。

ここで長年問題になっていたのが、相続や転居などをきっかけに連絡が取れなくなった所有者の扱いです。これまでの区分所有法では、こうした「所在不明の所有者」も、賛成・反対を数えるときの分母(決議を成立させるのに必要な賛成の基準となる、全体の人数)にそのまま含まれていました。

返事のしようがない所有者が、実質的に「反対」と同じ扱いになってしまっていたわけです。大規模修繕や建替えのように、住民の暮らしや資産に直結する決議ほど、この壁にぶつかりやすい状況でした。

何が変わった?所在不明者を決議の分母から外せる制度

2026年4月に施行された改正区分所有法38条の2(参照:e-Gov法令検索)では、こうした所在不明の所有者を、決議の分母から除外できる制度が新しく設けられました。

具体的には、管理者(理事長)や管理組合、あるいは区分所有者本人が裁判所に申し立て、「調査を尽くしても所在が分からない」と裁判所に認めてもらうことで、その人を決議の人数計算から外せるようになりました。除外が認められると、その後のすべての決議(建替えを含みます)で、その人を数えずに賛否を計算できます。

たとえば10人の所有者のうち3人と連絡が取れない場合、これまでは10人を分母に賛成数を数える必要がありましたが、除外が認められれば7人が分母になり、合意形成のハードルが下がります。

一点、注意しておきたいことがあります。「電話がつながらない」「郵便が返送されてきた」といった事情だけでは、裁判所は簡単には認めてくれません。登記簿の確認など、可能な範囲で所在を突き止める努力をしたうえで申し立てる必要があります。

もう一つの変化:空き部屋そのものの管理・処分

今回の改正では、決議への参加だけでなく、所在不明の所有者が持つ部屋(専有部分。廊下やエレベーターなど皆で使う「共用部分」に対して、各住戸の中で所有者個人の権利が及ぶ範囲を指します)そのものを、裁判所が選んだ管理人が管理できる制度も新設されました。

長期間放置された空き部屋が、害虫やにおいの発生源になったり、老朽化で危険な状態になったりするケースは、マンション管理の現場でも実際によく耳にする悩みです。この制度により、裁判所の許可があれば、所有者本人の同意がなくても、管理人が必要な管理や、場合によっては売却まで行えるようになります。

マンション管理士としても、この改正は現場感覚に合っている

私自身、マンション管理士として管理組合の相談を受ける中で、「所在不明な人のせいで、何年も大規模修繕の話が進まない」という声を何度も聞いてきました。誰も悪いわけではないのに、手続きが止まってしまう。今回の改正は、そうした「詰み」の状態を、法律の力で解消しようとするものだと感じています。

一方で、除外の申し立てには裁判所とのやり取りや、それなりの調査・準備が必要です。管理組合だけで進めるのは負担が大きい場面も出てくるはずです。

まとめ

2026年4月施行の改正区分所有法により、

所在不明の区分所有者を裁判所の判断で決議の分母から除外できる制度

所在不明者の空き部屋を裁判所選任の管理人が管理・処分できる制度

以上2つが新設されました。どちらも、「連絡が取れない所有者」が原因で管理組合の意思決定が止まってしまう問題に対応するための仕組みです。次回は、これらの改正を受けて管理規約をどう見直せばよいかを取り上げる予定です。

専門家からの一言

所在不明者の対応は、法律の制度が変わっただけで自動的に解決するわけではありません。「うちの管理組合にも当てはまるのか」「どこから手をつければいいのか」という段階でつまずく管理組合を、私はこれまで何度も見てきました。現場を知るマンション管理士・行政書士として、制度の説明だけでなく、実際に動き出すところまで一緒に考えるお手伝いができればと思っています。

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