「契約書を作りたいけれど、ネットで検索すれば無料のひな形がたくさん出てくる」
そう考える方は少なくありません。
実際、インターネット上には、業務委託契約書、売買契約書、賃貸借契約書、請負契約書、秘密保持契約書など、さまざまな契約書のひな形があります。
では、それをダウンロードして、会社名や金額だけを書き換えれば、それで十分なのでしょうか。
結論から申し上げます。
ネットのひな形を使うこと自体が悪いわけではありません。
しかし、そのひな形を自社の取引内容に合わせず、そのまま使用することには大きなリスクがあります。
契約書は、見た目を整えるための書類ではありません。
取引が順調に進んでいる間は、ほとんど読まれることもありません。しかし、支払いが遅れたとき、工事内容について認識の違いが生じたとき、契約を解除したいとき、損害が発生したとき――。
そのとき初めて、
「この場合、契約書には何と書いてあるのか」
が問題になります。
つまり契約書は、トラブルが起きなかったときのための書類ではなく、トラブルが起きたときに初めて真価が問われる書類なのです。
ネットのひな形が危険なのではありません
「ネットのひな形は危険です」
このように説明されることがあります。
しかし、これは少し正確ではありません。
ひな形には、契約書に必要となる基本的な項目や、一般的な契約実務の構造を確認できるという利点があります。
問題は、
その契約書が、自分たちの実際の取引に合っているかどうか
です。
例えば、同じ「業務委託契約書」でも、実際には、
- 単発の仕事なのか
- 継続的な取引なのか
- 再委託を認めるのか
- 成果物を納品する契約なのか
- 作業そのものを依頼する契約なのか
- 報酬は固定なのか、出来高なのか
- 経費は誰が負担するのか
- 途中で契約を終了する場合はどうするのか
などによって、確認すべき内容は変わります。
インターネット上のひな形は、あくまで「一般的な取引」を想定して作られていることが多いものです。
あなたの会社と取引先の間にある、具体的な事情まで自動的に反映してくれるわけではありません。
「会社名と金額だけ変えれば完成」が最も危険です
実際の契約書作成で注意したいのが、
条項をよく読まず、当事者の名称や金額だけを書き換えて使用するケース
です。
例えば、次のような条項が残っていることがあります。
- 実際には存在しない業務内容
- 自社には不必要な秘密保持条項
- 実態に合わない損害賠償条項
- 一方の当事者だけに有利な解除条項
- 自動更新の条件
- 管轄裁判所の定め
- 再委託に関する制限
- 知的財産権の帰属
- 契約終了後の義務
これらは、契約締結時にはほとんど意識されないことがあります。
しかし、後からトラブルになった場合には、
「その条項が書いてある」
という事実そのものが重要になります。
契約書は、署名・押印する前に十分確認することが必要です。
「読んでいなかった」
「ネットのひな形だったので大丈夫だと思った」
という事情だけで、問題がなかったことになるとは限りません。
契約書で重要なのは「文章の立派さ」ではありません
契約書というと、難しい法律用語が並んだ、何ページにもわたる文書をイメージされる方も多いでしょう。
しかし、本当に重要なのは、難しい文章を書くことではありません。
重要なのは、
その取引で、何を約束し、誰が、何を、いつまでに、どのような条件で行うのか。
これが明確になっていることです。
例えば、建設工事やリフォーム工事であれば、
「工事を行う」
という一文だけでは不十分です。
実際には、
- どこを工事するのか
- どのような材料を使用するのか
- 数量はどの程度なのか
- 工事金額はいくらなのか
- 追加工事が発生した場合はどうするのか
- 工期はいつからいつまでなのか
- 天候等による工期変更はどうするのか
- 契約解除となった場合、既施工部分の費用はどうするのか
といった問題が発生します。
現場を知っているからこそ分かることですが、トラブルは契約書に書かれていることだけでなく、「書かれていないこと」からも発生します。
「良い契約書」とは、分厚い契約書ではありません
契約書のページ数が多ければ安全というわけではありません。
逆に、条項が多すぎて当事者自身が内容を理解していなければ、それも問題です。
良い契約書とは、
その取引で起こり得る問題を想定し、必要なルールが整理されている契約書
だと私は考えています。
例えば、取引内容によって重要になるポイントは異なります。
業務委託契約の場合
- 委託する業務の範囲
- 報酬
- 経費負担
- 再委託
- 秘密保持
- 契約期間
- 解除条件
請負契約の場合
- 完成させる仕事の内容
- 請負代金
- 支払時期
- 追加・変更工事
- 工期
- 契約解除
- 損害が発生した場合の取扱い
賃貸借契約の場合
- 使用目的
- 賃料
- 契約期間
- 修繕負担
- 禁止事項
- 中途解約
- 原状回復
同じ名称の契約書であっても、実際の取引によって必要な条項は変わります。
だからこそ、「ネットで見つけた契約書と同じ形式だから大丈夫」とは簡単には言えないのです。
特に注意したいのは「解除条項」です
契約書の中でも、特に重要なのが契約解除に関する条項です。
取引が順調に進んでいる間は、契約解除について考えることはほとんどありません。
しかし、
- 支払いがされない
- 約束した業務を行わない
- 契約違反がある
- 信頼関係が維持できなくなった
といった問題が発生すると、契約を終了させる必要が出てきます。
その際、
どのような場合に契約を解除できるのか
解除する前に催告が必要なのか
解除した場合、すでに行った業務や工事の費用はどうなるのか
といった問題が生じます。
ネットのひな形に解除条項が書かれていたとしても、それが自社の取引に適しているとは限りません。
「契約書に書いてあるから大丈夫」と考えるのではなく、実際にその条項を使う場面を想像することが重要です。
建設・不動産・マンション管理の契約は、特に「実態」が重要です
私は、行政書士としての業務だけでなく、建設・リフォーム業の現場と経営に長年携わってきました。
その経験から感じるのは、
契約書は、法律だけを知っていても十分ではなく、実際の取引や現場の流れを理解していることが重要
だということです。
例えば建設・リフォーム工事では、
「追加工事」
という一言だけでも、実務上はさまざまな問題があります。
誰が追加工事を依頼したのか。
金額について事前に合意していたのか。
口頭で依頼された場合はどうするのか。
工事が完了してから追加費用を請求しても問題ないのか。
こうした問題は、実際に取引や現場を経験して初めて具体的に見えてくる部分があります。
契約書を作成する際には、法律的な形式だけでなく、
「実際にどのような取引が行われるのか」
を整理することが欠かせません。
ネットのひな形を使う場合のチェックポイント
ネット上のひな形を利用する場合は、少なくとも次の点を確認することをおすすめします。
1.実際の取引内容と合っているか
契約書のタイトルではなく、中身を確認します。
「業務委託契約書」と書かれていても、自社の取引内容に合っているとは限りません。
2.誰が何をするのか明確か
業務内容や役割分担が曖昧な契約書は、後から認識の違いが生じやすくなります。
3.お金に関する条件が明確か
- 契約金額
- 消費税
- 支払期限
- 振込手数料
- 遅延損害金
- 追加費用
などを確認します。
4.契約を途中で終了する場合のルールがあるか
契約解除や中途解約について、実際に問題が起きた場合を想定して確認します。
5.損害が発生した場合の責任が適切か
損害賠償条項については、必要以上に重い責任を負っていないか、一方的に不利な内容になっていないかを確認する必要があります。
6.古いひな形を使っていないか
法律や制度は改正されることがあります。
数年前に作成された契約書をそのまま使い続けるのではなく、現在の法令や取引実態に適しているか、定期的に見直すことが重要です。
「契約書がある」ことと「安心できる」ことは別です
ここは非常に重要です。
契約書が存在しているだけで、すべてのトラブルを防げるわけではありません。
契約書に署名・押印していても、
- 内容が曖昧
- 実際の取引と異なる
- 当事者間で認識が違う
- 想定していなかった問題が発生する
ということはあります。
大切なのは、
契約書を作ること自体を目的にしないこと
です。
契約書は、取引のルールを整理し、将来起こり得る認識の違いやトラブルを減らすためのものです。
その目的を考えず、インターネット上の文章をコピー&ペーストするだけでは、本来の役割を果たせない場合があります。
ひな形は「完成品」ではなく、「たたき台」と考える
ネットのひな形を利用するのであれば、
完成した契約書として使うのではなく、契約内容を整理するためのたたき台として利用する
という考え方が現実的です。
実際の取引を確認し、
「この条項は必要なのか」
「この条項は自社の取引に合っているのか」
「逆に、必要な条項が抜けていないか」
を一つずつ確認する。
この作業が重要です。
実際に、経済産業省が公表する契約書例でも、契約書の例を「契約交渉のための叩き台」と位置付け、個別の事情に応じた改変や専門家への相談を求めています。
つまり、ひな形をそのまま「正解」と考えるのではなく、自社の取引内容に合わせて検討するための出発点として考えるのが適切です。
契約書は「トラブルが起きてから」見直しても遅いことがあります
契約書について相談を検討される方の中には、
「まだトラブルにはなっていないので、今は必要ない」
と考える方もいらっしゃいます。
しかし、本来は逆です。
トラブルが発生してからでは、すでに締結された契約内容を前提に対応を考えなければならない場合があります。
だからこそ、
- 新しい取引を始める
- 継続的な取引を開始する
- 業務委託を始める
- 工事請負契約を締結する
- 賃貸借契約を結ぶ
- 現在使用している契約書を見直したい
といった段階で、契約内容を整理しておくことには意味があります。
契約書は、トラブルが起きた後に読むものではありません。
トラブルを減らすために、契約を結ぶ前に確認するものです。
契約書の作成・見直しをご検討の方へ
すみれ法務事務所では、契約書を単に形式的な書類として作成するのではなく、まず取引の内容や当事者の関係、実際の業務の流れを整理したうえで、必要な契約内容を検討します。
私は、行政書士としての法務知識に加え、建設・リフォーム業の現場と経営、不動産、マンション管理の実務に携わってきました。
そのため、特に、
- 建設業者・リフォーム業者の契約書
- 業務委託契約書
- 請負契約書
- 不動産に関する契約書
- 賃貸借契約書
- マンション管理に関する書類
- 中小企業・個人事業主の継続的取引に関する契約書
などについて、法律上の形式だけでなく、実際の取引実態を踏まえた契約内容の整理をお手伝いします。
「ネットのひな形を使っているが、このままで問題ないのか」
「現在使っている契約書を一度見直したい」
「取引内容に合わせて契約書を作りたい」
という場合は、一度ご相談ください。
※ すでに具体的な法的紛争が発生している場合や、交渉・訴訟対応を要する案件については、弁護士への相談が適切な場合があります。その際は、日頃からお付き合いのある中で、専門性はもちろんのこと、対応のスピード(レスポンスの早さ)、誠実な対応、そして人柄にも信頼を置ける専門家をご紹介しています。
