これまでの記事で、建替え決議のルール変更や、所在不明の所有者への対応など、区分所有法改正の中身を見てきました。今回は少し視点を変えて、「では実際に、自分のマンションの管理規約はどう見直せばいいのか」という、管理組合にとって一番気になるところを取り上げます。
そもそも「管理規約」と「区分所有法」は何が違う?
管理規約とは、それぞれのマンションが独自に定めている、いわば「うちのマンションのルールブック」です。総会の開き方や、修繕積立金の使い道、ペットの飼育ルールなど、法律だけでは決まっていない細かい部分を定めています。
区分所有法は、すべてのマンションに共通する土台となる法律です。管理規約は、この区分所有法の枠の中で、各マンションが自由に決められる部分について定めたもの、というイメージを持っていただくと分かりやすいと思います。
国が示す「ルールブックのお手本」が2025年10月に改正された
国土交通省は、管理規約を作る・見直すときの参考にしてもらうための「お手本」として、「マンション標準管理規約」というひな形を公表しています。あくまで参考のひな形であり、法律そのものではありませんが、多くのマンションの管理規約は、このひな形をベースに作られています。
2025年10月17日、国土交通省はこの標準管理規約を、区分所有法改正に合わせて改正・公表しました。国土交通省自身が「各マンションの管理規約も見直しが必要になります」と呼びかけていることからも、他人事にはしにくい話だとお分かりいただけると思います。
見直しには「必ず直す部分」と「話し合って決める部分」がある
規約の見直しポイントを整理するときに役立つのが、「強行規定」と「任意規定」という考え方です。
- 強行規定:区分所有法で決まっている内容なので、今までの規約に何と書いてあったとしても、改正後は新しいルールが優先されます。ただし、規約の文言が古いままだと、実際の運用で混乱を招きやすくなります。
- 任意規定:法律の範囲内で、マンションごとに決められる部分です。こちらは総会で話し合って、規約に反映するかどうかを決める必要があります。
今改正でチェックしたい項目
国土交通省の資料などをもとに、確認しておきたい項目を挙げます。
① 総会の決議要件(強行規定)
建替え決議など一部を除く特別決議についても、出席者を基準とした多数決が可能になるなど、決議の成立要件が変わりました。総会の定足数(成立に必要な出席者数の基準)についても見直しが行われています。
② 総会招集時の通知事項(強行規定)
総会の案内を出すときに、議案の詳しい内容(議案の要領)を示すべき範囲が見直されています。
③ 共有部分に係る損害賠償請求権等の代理行使 (強行規定)
共用部分に欠陥や損害が生じた場合、管理者が区分所有者に代わって損害賠償請求権をまとめて請求・受領できることが、法律上あらためて明確になりました。所有者が売買で入れ替わっても、管理者が窓口として一元的に対応できる点が実務上のポイントです。
④ 所在不明の区分所有者への対応(任意規定)
裁判所の手続きを使って所在不明者を決議の母数から除外する仕組みを、実際に管理組合として使えるようにするための規約整備が必要になります。
⑤ 海外在住オーナー向けの「国内管理人」制度(任意規定)
海外に住んでいて連絡が取りにくい所有者について、国内の代理人(管理人)を立ててもらう仕組みの活用方法も、見直しの対象に挙がっています。
⑥ 共用部分の工事に伴う専有部分への対応(任意規定)
配管の一体的な補修など、共用部分の工事のために専有部分(各住戸の中の、所有者個人の権利が及ぶ範囲)に立ち入ったり手を加えたりする必要がある場合の規定も整理されています。
⑦ 修繕積立金の使い道(任意規定)
建替え以外の再生手法(敷地売却や取り壊しなど)の調査・検討にかかる費用にも、修繕積立金を使えることが明確にされました。
⑧ 専有部分の保存行為実施の請求(任意規定)
漏水の原因が他の住戸の設備にあるなど、専有部分(各住戸内で所有者個人の権利が及ぶ範囲)に不具合がある場合、これまでは「立ち入り」を請求できるだけでしたが、改正後は修繕などの「保存」そのものを請求できるようになりました。
⑨ マンションに特化した財産管理制度の活用に係る手続き(任意規定)
所在不明や管理が行き届いていない専有部分・共用部分について、裁判所が選んだ管理人 (弁護士・司法書士・マンション管理士など) に管理を任せられる制度が新設されました。
⑩ 区分所有者の責務(任意規定)
区分所有者は管理組合の一員として、建物や敷地の管理が適正かつ円滑に行われるよう互いに協力しなければならない、という規定が新たに設けられました。総会に参加しない所有者が増えている現状を踏まえたものです。
任意規定を管理規約にどう具体化するかは、管理組合ごとの要検討事項です。
マンション管理士として感じること
管理規約の見直しは、単なる「書き換え」ではありません。
管理規約の見直しというと、「法律が変わったのだから、その内容に合わせて規約を書き換えればよい」と考えられがちです。
しかし、実際の規約改正は、そう単純な作業ではありません。
改正された区分所有法に抵触する規定を確認し、必要な修正を行うことはもちろん重要です。一方で、法律上、必ず規約に反映しなければならない事項ばかりではありません。
任意規定について、どこまで取り入れるのか。
従来の規約を維持するのか。
あるいは、そのマンションの実情に合わせて独自のルールを設けるのか。
こうした点についても、管理組合として一つひとつ検討し、必要に応じて話し合い、意思決定していくことが重要です。
特に、総会の招集手続や決議要件など、日常の管理組合運営に直結する部分については注意が必要です。
規約が古いままになっていると、理事会や区分所有者が「どのルールに従えばよいのか」と判断に迷うだけでなく、総会決議の有効性などをめぐって、思わぬトラブルにつながる可能性もあります。
今回の法改正をきっかけに、単に「法律に合わせて規約を書き換える」のではなく、自分たちのマンションにとって、どのようなルールが適切なのかを改めて考える機会にすることが大切なのではないでしょうか。
国土交通省も、改正区分所有法に対応した「マンション標準管理規約」を公表し、各マンションにおいて管理規約の見直しを進めるよう求めています。
マンション管理士としては、法令との適合性だけを見るのではなく、そのマンションの規模、築年数、居住者構成、管理の実情まで踏まえて、「実際に機能する規約」になっているかを見ることが重要だと感じています。
まとめ
2025年10月、国土交通省は区分所有法改正に合わせて「マンション標準管理規約」を改正・公表しました。標準管理規約自体は法律ではありませんが、多くのマンションの規約のベースになっているため、実務上の影響は小さくありません。総会の決議要件のように必ず整合させる必要がある部分(強行規定)と、国内管理人制度の活用のように管理組合ごとに話し合って決める部分(任意規定)を分けて考えることが、見直しの第一歩になります。
専門家からの一言
管理規約の見直しは、条文を差し替えるだけの作業に見えて、実際には「うちのマンションはどこまで新しいルールに合わせるか」という、今後のマンション管理のルールを決める住民同士の話し合いそのものが必要です。現場を知るマンション管理士・行政書士として、条文の整合性を整えるだけでなく、その話し合いの土台となる資料づくりからお手伝いできればと思っています。
