遺言書と一口に言っても、実はいくつか種類があります。よく使われているのは「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」の2つです。(このほかに「秘密証書遺言」という方式もありますが、実際にはあまり使われていません。)この記事では、代表的な2つの違いを整理します。
自筆証書遺言とは
自筆証書遺言は、自分で紙に書いて作る遺言書です。全文・日付・名前を手書きし、印鑑を押すことで完成します(民法968条、参照:e-Gov法令検索)。財産の一覧表(財産目録)の部分だけは、パソコンで作ったり通帳のコピーを使ったりしてもかまいません。
費用がかからず、思い立ったときにすぐ自分一人で書けるのが一番のメリットです。内容を誰にも知られずに残せる点も特徴です。
一方で、注意も必要です。書き方のルールを一つでも間違えると、遺言書そのものが無効になってしまうことがあります。自宅で保管すると、なくしてしまう、誰かに書き換えられる、家族に見つけてもらえない、といった心配もあります。また、亡くなった後は原則として家庭裁判所での「検認」という手続きが必要です。
法務局に預けられる「保管制度」でリスクを減らせる
2020年7月から、自筆証書遺言を法務局で預かってもらえる制度が始まりました。法務局の職員が、日付や名前がきちんと書かれているかなど、形式面をチェックしてくれます。これにより、なくしたり書き換えられたりする心配がなくなり、検認の手続きも不要になります。ただし、遺言の中身が正しいかどうかまでは、法務局はチェックしてくれません。
かかる費用は次のとおりです(2026年8月時点で確認できた金額です。変わることもあるので、実際に利用する際は法務局の窓口でご確認ください)。
| 手続き | 手数料 | 手続きできる人 |
|---|---|---|
| 遺言書の保管の申請 | 1件(遺言書1通)につき 3,900円 | 遺言者 |
| 遺言書の閲覧の請求(モニター) | 1回につき 1,400円 | 遺言者/関係相続人等 |
| 遺言書の閲覧の請求(原本) | 1回につき 1,700円 | 遺言者/関係相続人等 |
| 遺言書情報証明書の交付請求 | 1通につき 1,400円 | 関係相続人等 |
| 遺言書保管事実証明書の交付請求 | 1通につき 800円 | 関係相続人等 |
| 申請書等・撤回書等の閲覧の請求 | 申請書等1件または撤回書等1件につき 1,700円 | 遺言者/関係相続人等 |
※遺言者による保管の申請の撤回や、住所等の変更届出には、手数料はかかりません。
公正証書遺言とは
公正証書遺言は、公証役場で「公証人」という専門家に作ってもらう遺言書です。証人に2名以上立ち会ってもらい、自分の希望を話して公証人に文章にしてもらいます。できあがった遺言書の原本は、公証役場でずっと保管されます。
公証人が関わるため、書き方の間違いで無効になる心配がほとんどありません。原本は公証役場に保管されるので、なくす心配もなく、検認の手続きも不要です。
デメリットは、費用がかかることと、証人を2名用意する必要があることです。証人と言っても、必ず自分で手配する必要はなく、一般的には公証役場が地域の法律専門職の方を手配してくれます。1人あたり5,000円〜1万円程度の謝礼は必要になります。
費用の違いについて
自筆証書遺言は、自分で書くだけなら費用はかかりません(保管制度を使う場合は、前の表の金額がかかります)。
公正証書遺言は、遺言で渡す財産の金額によって手数料が変わる仕組みです。具体的な金額はここでは書いていません。2025年に手数料の決まりが見直され、以前より高くなったケースもあるという情報があったため、正確な金額は公証役場に直接確認することをおすすめします。
どちらを選べばいい?
よく言われる目安は、次のとおりです。
- 財産の内容がシンプルで、まず手軽に残しておきたい方 → 自筆証書遺言+保管制度の組み合わせ
- 財産が多い方、家族間でもめる可能性がある方、確実性を重視したい方 → 公正証書遺言
どちらが向いているかは、ご家庭の事情によって変わります。迷ったときは、専門家に相談しながら決めると安心です。
【最新情報】2026年に遺言のルールが変わります
2026年6月に、遺言に関する法律(民法)が変わることが決まりました。
- 自筆証書遺言で必要だった押印が、将来はいらなくなります。(法律が公布されてから1年以内に施行される予定ですが、2026年8月末時点ではまだ変わっていません。今遺言書を書くなら、これまでどおり押印が必要です。)
- パソコンやスマホで作れる「保管証書遺言」という新しい種類の遺言書も、これから使えるようになる予定です(施行まで最大3年程度かかる見込みです)。
どちらもまだ始まっていない制度なので、今遺言書を用意するなら、今の決まりに沿って作る必要があります。施行日が正式に決まり次第、この記事も更新する予定です。
新制度のメリット・デメリット総まとめ【専門家が比較解説】
ここまでお話しした新しい制度について、今までの方式と合わせて比較してみましょう。ご自身にとってどの方式が合っているか、判断する材料にしてください。
保管証書遺言と、押印がいらなくなった後の自筆証書遺言は、どちらもまだ始まっていない制度です。始まる時期は、これから国が決めます。
| 比較項目 | 保管証書遺言(新設) | 自筆証書遺言(改正後) | 公正証書遺言(現行) |
|---|---|---|---|
| 作り方 | パソコン・スマホなどで作成し、法務局へ保管を申請 | 本文は手書き(財産目録はパソコン作成・通帳コピーも可) | 公証人が話を聞きながら作成 |
| 印鑑(押印) | 不要 | 不要(改正後) | 必要(実印または認印) |
| 証人 | △ 不要と見られるが、まだはっきりしない(※1) | 不要 | 必要(2名以上) |
| 検認 | 不要 | 必要 | 不要 |
| 安全性(なくす・書き換えられる心配) | ◎ 低い(法務局が原本やデータを保管) | △ 自分で管理するため心配は残る | ◎ 低い(原本を公証役場が長く保管) |
| 内容の正しさ | △ 自己責任(公証人は関わらない) | △ 自己責任(決まりを守らないと無効に) | ◎ 公証人が関わるため無効になりにくい |
| 費用 | ? まだわからない(※2) | ◎ 作成自体は0円(保管制度を使う場合は別途費用) | × 財産の額によって変わる(数万円程度からが目安) |
| こんな方に | 手書きが難しい方、パソコンやスマホで作りたい方 | とにかく費用を抑えたい方、内容がシンプルな方 | 費用がかかっても一番確実な方法を選びたい方 |
※1 2025年の報道では「証人の立ち会いと録画が必要」とされていましたが、その後の情報では、証人ではなく「法務局の担当者に口で内容を伝える」という手続きが必要になりそうです。詳しいことはまだ決まっていません。
※2 保管証書遺言の費用は、まだ発表されていません。自筆証書遺言の保管制度(3,900円)が参考にはなりますが、正確な金額はわかりません。
まとめ
- 遺言書には自筆証書遺言・公正証書遺言(・秘密証書遺言)という種類があり、手軽さと確実さのバランスが違います。
- 自筆証書遺言は、法務局の保管制度を使うと、なくしたり書き換えられたりする心配や、検認の手続きを減らせます。
- 公正証書遺言は費用がかかりますが、今のところ一番無効になりにくい方法です。
- 2026年の法律改正で将来ルールが変わりますが、始まるまでは今の決まりに沿って準備する必要があります。
この記事は、2026年8月時点でわかっている情報をもとにした一般的な説明です。個別の状況に対する法的なアドバイスではありません。手数料や制度の詳しい内容は、法務局や公証役場に直接ご確認ください。押印が不要になることなど、法律の改正内容は、今後決まる政令によって変わる可能性があります。
専門家からの一言:
遺言書は、家族への最後の思いやりであり、争いを防ぐための備えでもあります。方式にはそれぞれ良いところと注意点がありますが、「せっかく書いたのに、決まりを守れていなくて無効になってしまった」ということだけは避けたいものです。ご自身に合った方式を、一つずつ一緒に整理していきましょう。
